2014年8月1日金曜日

【竹岡一郎作品 No.19】 




ラヴラヴフランケンシュタイン  竹岡一郎


忘れ野や捨子の棲める冷蔵庫

俎に人魚剖(ひら)かれ 人間やめたい

雷神が博士の箱に囚はるる

ゼリー状の死が旨さうに冷蔵庫

雷に撃たれつつ塔育つとは

万年氷截るや染み出す神の影

まづ臠(ししむら)つぎに霊(たま)容れ冷蔵庫

雷を共に怖がるひと欲しい

運命の無きたましひを召喚せよ
 
冷蔵庫開けて綾なす悲鳴聴く

神へ這ひ進む実験旱星

うづたかく卵捧げて託宣待つ

九頭蛇(ヒドラ)立て星への道を嗅ぎ当てよ

イヴ造るなら汗溜る臍閉ざし

いかづちにいのちが鍛へ直さるる

創世の息吹滴れわがみづかき

産声に夏天醗酵きはまるや

雷の熅(いきれ) 髪尖る花嫁

花嫁のため食人植物(トリフィド)の花氷

愛(かな)しき劫暑 がたぴしと円舞して

竜巻・薔薇・火花の褥 いざ娶らむ

犇めく神兵肉喰ひ散らし日焼して

岬には醜き天使つばさ食み

創(きず)に充ちイヴが下すは審判・雹

雷(らい)の野をゆくノケモノよ町恋ふな

冷蔵庫終(つひ)に私の死を保つ

湾いちめん水母げらげら声跳ねて

水母舞ふ紅蓮なす世の突端を

漂流す人面鳥(セイレン)とまる冷蔵庫

極北に空く冷蔵庫 次の進化




【作者紹介】

  • 竹岡一郎(たけおか・いちろう)

昭和38年8月生れ。平成4年、俳句結社「鷹」入会。平成5年、鷹エッセイ賞。平成7年、鷹新人賞。同年、鷹同人。平成19年、鷹俳句賞。
平成21年、鷹月光集同人。著書 句集「蜂の巣マシンガン」(平成23年9月、ふらんす堂)。

1 件のコメント:

  1. そうか!
    冷蔵庫は己の屍を納める為の物なのか・・

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