2013年12月6日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む22~住その他②~】/筑紫磐井

戦後何が変わったと言って、一番の変化は女性と天皇に対する態度ではなかろうか。まず女性から。戦後らしい女性に関する項目についてはすでにいくつか取り上げたが、取り上げ洩らしたものを見てみる。

【生理日】
生理日の妻に水仙黄一色 氷原帯 27・6 堀内信乃子 
生理日や短期は妻がならす俎板 氷原帯 29・7 鈴木芳子
【婦警――パトロール】
あごかれは刑事婦警よ卒業す ホトトギス 24・9 砂山きよ女 
バラ抱いて婦人警官我に近く 麦 25・7  尾崎新一 
整理する婦警の笛に舗道炎ゆ 石楠 26・10 大村みのり 
桃青忌婦警闊歩の天青く 曲水 27・11 荒芙容女 
散る花を目で追ひ婦警パトロール ホトトギス 26・8 宮本公彦 
パトロール時計よみよみ雪をまがる 寒雷 27・5 白石みどり 
寒灯の河岸の倉庫のパトロール 俳句 28・6 古屋孤渓
生理日を公然というのも戦後ならではであろう。また、婦警は、権力機構の中に女性が位置する物珍しさもあったであろう。これは私だけの感じかも知れないが、詠まれた句が全て生き生きしているように感じられるのは、婦警は一種の民主主義の象徴のようなものであったからではなかろうか。
アメリカ軍の進駐に伴い、台風も女性化した。

【台風<戦後的な>――台風予報】

台風に女性の名ありいよいよ来る 暖流 22・11 瀧春一 
皓太逝きアレン台風巷を過ぐ 石楠 25・2 伊勢鏡一郎 
台風予報月は嗤ふが如く澄む 石楠 26・2 角川澄水 
台風予報机上の眼鏡曇りをる 石楠 28・12 石井真
象徴と言えば、天皇という政治的な色彩の強い言葉についてはすでに触れたので、ここではそうしたどぎつさのない題を眺めてみる。

【人間天皇】
お降の中天皇帽を振り給ふ 石楠 25・5 高橋蒼々子 
麦刈に天皇の汽車辺く短かし 浜 27・9 増田達治 
芽柳や平民二重橋をわたる 曲水 27・8 江口我孫子
【国歌――君が代】

元日の野草君が代きかぬ久しき 石楠 26・5/6 安倍布秋 
綿虫や国家君が代廃れざりし 俳句苑 28・5
【返爵】

返爵して気安さよ冬籠 ホトトギス 24・3 榎本紫陽

「君が代きかぬ久しき」も「君が代廃れざりし」も真実であるところがこうしたアンソロジーの楽しさである。

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