2013年9月20日金曜日

文体の変化【テーマ:昭和20年代を読む13~食②~】/筑紫磐井


(2)いわくある米

米は当然日本人の主食であり、米さえあれば満足出来たはずである。従って、米そのものは高い価値で詠まれるがそれは戦前戦後も変わるところはない。

【新米】

新米を摺りてひとりの汗ながす 馬酔木 24・2 沢井白柳子 
れいらふと新米ひとつ爪の上 石楠 25・1 山田句浪 
薬代は新米二升それでよし ホトトギス 26・3 高橋吉隆 
米は貴重品であるというのは当然だから、今回は曰くのある米をあげてみよう。曰くとはいろいろ瑕疵のある米である。


【粥】

今朝秋や粥を食うべて恙なし ホトトギス 21・3 皿井旭川 
すさまじや大小の口粥すする 太陽系 22・6 島田洋一 
恐ろしき世にながらへて干葉粥 ホトトギス 22・10 山口美和女 
遅日の吾を妻は粥煮て待つやあらむ 石楠 22・11/12 近藤麦月 
粥水の如くうすくて紅葉濃し ホトトギス 24・5 高野素十 
粥すする浅漬の歯にこたゆ冷え 石楠 25・5 平宮広水 
虹まどか妻子は切に粥をふく 雨覆 石田波郷

 
【雑炊】

共に雑炊喰するキリスト生れよかし 来し方行方 21 中村草田男 
賢治の詩となへ雑炊を子も我も 太陽系 21・9 北垣一柿 
雑炊やどの子も妻も皆いとし ホトトギス 25・4 鳥越掬水女 
【藷】

藷粥をすすりて夜なべつづけけり ホトトギス 26・4 梅田こんも 
もがり笛粥のなかなる芋あつし 浜 23・1 目迫秩父 
甘藷粥に落ちし涙は粥となる 石楠 26・7 油布五線

※米を薄めた粥や、藷や野菜、草、諸々を混雑されて作られた雑炊が登場する。

【外米】

カリフルニヤ米のびやく光めしひさすよ 太陽系 21・10 浅海明龍 
爆音暑し外米の石歯に挟まり 浜 27・11 北原利郎 
外米に次ぐ麦飯や金魚玉 鶴 28・9 刈谷敬一 
梅雨に耐えて噛むやテキサス米と云ふ 寒雷 29・7 加賀谷一雄

※食ってうまい日本の米ではないということは分かるであろう。

【闇米】

白き米もらうて夏暁汽車を待つ 現代俳句 21・12 瀧春一 
闇米を挙げられ背の子ゆりあげる 青玄 26・11 田中史郎 
駅近く春夜の女米分け負ふ 石楠28・4 原田種茅 
かなかなや負ひ来し米を道路に買ふ 石楠 28・7 夏目操 
雪かかる背の荷闇米らしと見る 石楠 29・5 郡司野◆ 
去年今年金齧るよな米買ひぬ 石楠 29・4 高橋蒼々子 
藤散るや三鬼がわたす米袋 雨覆 29・4 石田波郷

※先の粥や外米が物質的欠陥のある米であるとすれば、これらは精神的な欠陥のある米と言えようか。配給でない限り闇売買になるのであり、それは統制法違反の違法な状態にある米である。公然であり、国民の誰もが行っていたとはいえ違法は違法だ。だから、こうした闇米(米ばかりではあるまいが)を拒否して栄養失調の中で死亡した判事もいた。

※問題はこれからである。次の米はどのような属性を持つのであろうか。生活実感がよく分からないのである。これらの「米」の前につくキーワード(「保有」など)に何を感じろと言うのか。言葉で難解であるとは言わないが、それに対する感情が分からない。論理的には見当がつかなくはないが、感情の問題として解けないのである。救護米、相場米は嬉しいのか悲しいのか、憤激すべきなのかが不明なのである。年配の方にご教示願えればありがたい。

【保有米】

保有米さきて冬越す衣を得たり 浜 28・3 若林可
【供出米】

供出米積みて暗さのいよいよ濃し 万緑 22・1 中村一衛
【供出―供米】

完納の目鼻もつきて炉酒もり ホトトギス 22・6 片田石城 
供米のつづき雪山あらはなる 石楠 25・4 浅野清水 
南国の供米おそし冬かすみ 曲水 26・2 後藤圭秀 
明日供出新米の俵庭に光る 曲水 28・2 保々秋生

【配給米】

待春や壜にて米を搗くことも 俳句研究 22・4 安住敦 
寒の雨鞄に入るる加配米 道標 28・7 大橋登子 
沈丁は咲きあふれをり米は来ず 野哭 加藤楸邨

【相場米】

相場米運ぶ車を押しやりぬ 石楠 25・1 渡辺敬里 
相場米割当票を貼りし納屋 ホトトギス 27・2 本間一萍 
【救護米】

さむざむといただく救護米尊と 浜 29・1 川合華光

※少しだけ補足すれば、戦前から始まった、生産者(農家)が米麦等について自家保有量以外を公定価格で供出し、政府が消費者へ配給する食糧管理法に基づく制度で出て来る米の種類。生産者から見れば自家用に残されるのが「保有米」、供出されるのが「供出米」「供米」、消費者からみれば配給されるので「配給米」。

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