2013年7月26日金曜日

近木圭之介の句【テーマ:「赤」】/藤田踏青

背骨ニ刻ム 炎ノ文字群レルホド    注①


平成7年の作品であり、この時に起こった阪神淡路大震災に関連したものであろう。1月17日早朝、震度七の当時戦後最大の大地震であった。死者64百名余、負傷者437百名余、全半壊家屋249千棟以上、被害総額は約10兆円の大惨事であった。私もこの時に被災し、家が傾く程であったのでその時の恐怖感は今でも覚えている。

掲句の炎は神戸の街を焼き尽くす紅蓮の炎であろうか。それを成すすべも無く見つめるしかない後ろ姿が想像される。そしてその背中ではなく、背骨に刻み込むほどの悲哀をギリギリとかみしめ、次々に襲い来る炎の群れ様を、漢字とカタカナのみで鋭角に表現している。同時期には次の様な作品も発表されている。

月烈烈断水ノ街。犬帰ル     平成7年作     注① 
肉が骨が無防備 冬銀河     平成7年作     注②

前句には震災後の人気(ひとけ)も水もない街を、帰巣本能に導かれた一匹の犬が月に煌々と照らされながら帰って行くシーンが描かれている。ここでも漢字とカタカナのみの表現で、しかも「烈烈」という月光が照らし出す厳しい現状を直視している。また句中に挿入された句点は上句、下句の二つの存在の対比を強調するためのものとも考えられる。

後句の肉と骨が意味するものは人間そのものの原形であり、大自然の力の前では全く無力の存在であるとの謂いであり、冬銀河はその更に大いなる存在として提示されている。

カラクリ 背骨カラゼロガデテ来タ    平成7年作
背骨から出て来たのはゼロのみである。つまり何も無い、空なのである。意思としてのカラクリが空虚であるという深い絶望感がそこに漂っているような。

今回の東日本大震災の惨状に思いを馳せつつ、阪神淡路大震災を回想している私がいる。


注① 「層雲自由律2000年句集」 層雲自由律の会 平成12年刊
注② 「層雲自由律90年作品史」  層雲自由律の会 平成16年刊

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