2013年3月8日金曜日

平成二十五年 春興帖 第二

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   西村麒麟(「古志」)

いつ来ても手鞠ころころ梅の宿

良き人と書いてあるなり鳴雪忌

雑に蒔く事の楽しき花の種

鉄斎の春の屏風に住み着かん

神奈川や椿が咲けば数へつつ

 

   羽村美和子(「豈」「WA」「連衆」同人)

沈丁花香りの形で人が来る

雛の間を横に過ぎゆく時の船

千年の呪縛放たれ竜天に

 

   陽 美保子(「泉」同人)

 寒明けの一滴バニラエッセンス

落としたるものの落ちゆく朧かな

白隠の墨のしたたる春の雷

 

   三宅やよい

湯にのばす赤子のからだ牡丹雪

東風吹かばやさしく沈む膝枕

もう若くない紅梅へより集う

 

   茅根知子

冴返る部屋の真中の机かな

てのひらの水の匂ひが春の雪

野遊びの鞄の中の仄暗き

 

   仙田洋子

蛇穴を出でて行儀のよきとぐろ

はや蝶に愛されずして椿落つ

三面鏡蝶を押し潰してしまふ

 

   池田瑠那(「澤」同人 俳人協会会員)

青磁色なり流氷の張りはじめ

カステラを切れば弾力春の雪

さへづりや絵具皿なる瑠璃の粉

 

   依光陽子(「屋根」「クンツァイト」)

一時間前ははうれん草畑

餌台の釘錆びて春暮の鳥馬かな

鳥風や置かれて白き拡声器

海のうねり見る如くなり種を蒔く

痛き音立つる地上に巣箱かな

 

   小沢麻結(「知音」同人)

紅椿磯屋に干せる被せ網

春光や入江に波の音はつか

バレンタインデー今年はちよつとつまらなく

 

   栗山 心(くりやまこころ。1964年東京生まれ。「都市」所属。ブログ「心の俳句雑貨店」)

春の雪サランサランと積りけり

煮え滾るチゲの真つ赤や春の雪

春灯や髪に残りし煙草の香

 

関悦史

不器男賞終はりて春の寒さのみ

肩に手が乗る心霊写真昭和の日

乳白の異類添寝す春愁
 

 
   太田うさぎ(「雷魚」「豆の木」「蒐」所属)

内裏雛その隔たりに塵置かず

田楽が田楽のまま冷めてゐる

料峭の丘に立つ句碑自由律
 

 
   福田葉子

年祝う翁は恋を憶うかな

     墨の香愛でやぐ長き巻紙

梅林の空気ざわめき少女来て
 

 
   中山奈々(「百鳥」所属)

包装紙切つて花びら春いろは

春いろは最後に抱きしむる遊び

母を見るための眼や春いろは

 

近恵 (「炎環」「豆の木」所属)

ごろごろと亀薄氷の奥深く

蕗の薹探り腫れているわたくし

北窓を開きそのまま海のひと

猫鳴いて陽炎にほころびがある

ベーコンが玉虫色の鳥曇





  

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