2014年5月30日金曜日

【小津夜景作品No.25】  天蓋に埋もれる家(前)   小津夜景

 (デザイン/レイアウト:小津夜景)








        天蓋に埋もれる家(前)   小津夜景


やつと『意味の変容』を読んだわ/沢山の命題を糸のやうに繋いで小説にしちやつた本/《外部の実現が内部の現実と接続する時これをリアリズムといふ》《矛盾は常に無矛盾であらうとする方向をもつ》《まずその意味を取り去らなければ対応するものとすることができない。対応するものとすることができなければ構造することができず、構造することができなければ、いかなるものもその意味をもつことができない》/こんな感じの命題が次々出てくる/で、最後はかうした命題から導いた作者の生死観を披露してお終ひ/すごく面白かつた/ただ私、作者が生と死を対称に見たがる点はどうしても納得が行かない/生きてることと死んでることつて全然そんな関係ぢやないと思つてたから/それらの境目が綺麗な矛盾を描くかにみえたとしても、二つの対応を暗に目論む本人が、実際とはほど遠い、それこそ自分に都合の良い意味をそこに押しつけたせゐなんだし/え?/『もしそれらの意味を一度全部とつぱらつてしまつたとしたらどうなるか』つて?/その場合は当然生も死もなくなる/あるともないとも言へない風体で一切が漂ふだけよ/違ふ?/生死から意味を取り去つてしまへばもはや構造することはできない/より厳密に言へば、二度と再び構造を生きることはできない/意味を取り去つてなほも構造できると嘯く人は、世界を眺める『私』を取り去るのを忘れてゐる/生死の意味を対称な規則へとこつそり改竄するために、わざとそれを忘れてゐる/でも生死の境がなくなつた後も、その生死に囲はれてのみ生成する筈の『私』といふ条件だけは平然と残してゐられるなんて、さういふ無神経な賢さつて、とても胡散臭いと思ふの。


Je me séquestre dans une chaleur,
石兵を抱けば羽交ひに地のほてり

 Comme une courgette dans une boîte noire.
甘瓜のをとめがちなる巻き髭ぞ

 Qui parle, en flottant.
みなみかぜ奪はれてゐる象耳が

 Parle, en incinérant,
ひむかしに花炎ゆ炎ゆのかむいかな

 S’il me plaît la ruine.
くらげみな廃墟とならむ夢のあと

Des poissons flottants,
たましひに飽きて金魚をたゆたはす

Comme écriture fraîche, difficile à brûler.
ジギタリス焚けり宇宙の偽書足りず

 Gratter,
消印にかはほりほどの紆余あらむ

 Sans dénouer des cordons,
紐すこしほつれて黴の訳詩集

 Dans un papier blanc florentin.
梅雨やふいれんつえふつくらと幽閉す






【作者略歴】
  • 小津夜景(おづ・やけい)

     1973生れ。無所属。





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