2014年4月11日金曜日

【朝日俳壇鑑賞】 時壇 ~登頂回望 その十~  / 網野月を

朝日俳壇(2014年4月7日朝日新聞)から

◆今日を以て山は笑ふと決めにけり (西宮市)近藤六健

金子兜太の選である。「山笑う」の季題は「山眠る」などとともに山を主語にした俳句ならではの季語である。山の樹樹の芽が一斉に芽吹き出した様子が、「今日を以て」に集約されている。座五には「決めにけり」とあるから、何か自然神の意思が働いているようにも感じられる。

ところで中七結びの「と」の効果はどうであろうか?この「と」に拠って「決めにけり」の主語の所在が曖昧にならないだろうか。「山」を主語としても読めるし、大きな自然の力が意味上の主語とも読める。「今日を以て山は笑ふ」と自然の力が決めた、と読めるのだ。もう一つ可能性は微小だが、作者自身が山の様子をそう決めつけてみているとも読める。ただ作者自身が決めている場合、本来散発的な芽吹きの様子に対して、その木々によって個体差のある芽ぶきの時期を「今日を以て」と作者が線引きしたような句意になってしまい、これでは誤読に近くなってしまう。

◆春風やライオン橋のたてがみに (大阪市)行者婉

稲畑汀子の選である。「ライオン橋」とは関東人には馴染みの薄い名称である。大阪の難波橋の別称だそうだ。元々は八世紀から架けられていた歴史ある橋だ。何度も架け替えられて現在に至っている。現在のそれには天岡均一作の黒雲母花崗岩で出来た獅子像が据えられており、その対像の左側が阿形像、右側が吽形像になっている、と物の本にあった。句意は春風が獅子像の鬣に吹いているということか。像の鬣がまるで春風の所為で戦いでいるように見えるのだろう。上五の切れ字「や」に対して座五を「・・に」と流している点に注目したい。 br /> 【執筆者紹介】

  • 網野月を(あみの・つきを)
1960年与野市生まれ。

1983年学習院俳句会入会・同年「水明」入会・1997年「水明」同人・1998年現代俳句協会会員(現在研修部会委員)。

成瀬正俊、京極高忠、山本紫黄各氏に師事。

2009年季音賞(所属結社「水明」の賞)受賞。

現在「水明」「面」「鳥羽谷」所属。「Haiquology」代表。




(「朝日俳壇」の記事閲覧は有料コンテンツとなります。)

0 件のコメント:

コメントを投稿